吉田 雅之 院長（クローバー歯科)のインタビュー

患者さんと相互にコミュニケーションをとっていくことに喜びを感じて

　この道を志したのは、自分自身サラリーマンには向いていないと思ったことが１つと、それからもう１つ。私は高校までキリスト教系の学校に通っていました。今思えばですが人の役に立つ、人を助ける、ですとか、キリスト教的な教えがこの道を志す上でもう1つのきっかけになったのでしょう。患者さんは必要を感じて来院され、それに対して必要な治療をおこなっていくことになります。もちろん悩むこともありますが、その過程も私にとっては充実した時間であり、何より患者さんと相互にコミュニケーションをとっていくところが自分に非常に合っているように思うのです。

　大学卒業後は口腔外科に籍を置きました。当時は入院病棟を担当しながら、昼間は外来診療をおこない夜は救急と、本当に寝る間もない忙しさでした。しかしそのおかげで、どんな患者さんがいらしても動揺することはなくなりました。口腔外科では親知らずの抜歯はもちろん、がんの患者さんも診ますし、複雑な外傷も数多く拝見してきました。その経験があるからこそ、あらゆるシチュエーションに対応できるスキルが身についたと自負しているところです。

　『クローバー歯科』は、2016年に訪問歯科診療専門のクリニックとして立ち上げました。外来に来たくとも来られない方に対し、こちらから足を運ぼうと考えたのです。

訪問歯科診療に「制限」はない

　一般的なイメージとして、「訪問歯科」では、出来ることが限られると多くの方が思われるかもしれません。入れ歯の調整や口腔内の清掃など、いわゆるケアに限定されるだろうと。でも実際は、入れ歯も調整だけではなく作ることも出来ますし、外来診療とほぼ同様の治療を当院ではおこなっています。レントゲンもカメラ型のコンパクトな機器を持ち込んで撮影が可能で、被せ物やブリッジなどの技工物も、その場で型を取り、次回の診療までに出来上がっているという形です。その意味では何ら外来の診療と変わりがありません。診療室でおこなっていることをそのままご自宅で、というのが当院の訪問歯科診療となります。

患者さん本人の希望を汲むことが最優先

　外来の診療室では、言ってみれば “徹底的に” 治していくことが求められます。もちろんご本人の希望を聞いてのことですが。訪問診療が外来と大きく異なるのはその点でしょう。例えば本来であれば悪くなった歯を抜き、技工物を入れれば以前と遜色ない口腔機能を得ることができる場合でも、歯がグラグラでも本人及びご家族が「食べられるからいい」とおっしゃれば、その希望に沿うこともあります。それで不自由でないなら、あえてそれ以上の治療を求めない、ということです。逆に言えば、ご本人の希望を汲み、柔軟に対応していくことが訪問歯科診療には求められます。

話をすること。それが何よりも大事

　外来でも会話が重要なのは言うまでもないことですが、訪問ではその重要度がより増すと考えています。先ほど「無理に治療はしない」と述べましたが、お話をしっかり伺うことで、どこまでの治療を希望しているのかを考えていく必要があります。また外来では、本当のところを聞き出しにくいということもあります。例えば食事にしても、ご本人が「食べている」とおっしゃっても、確かめる術はありませんよね。それが訪問では、ご家族に聞くなどして、様々な情報を得られるわけです。

　よく言われるのですが、私はこの性格もあってか、ご高齢の方でも若い方であっても、比較的話しやすいそうなんですね。話を合わせられる、と言いましょうか。ご自宅にお伺いする訪問診療では、生活を見させていただくことになりますから、それこそ話の種には事欠きません。話をすること。場合によってはそのこと自体、大きな意味があると考えています。

地域のみなさんへメッセージ

　「訪問歯科なんてあるの、全然知らなかった」という声をよく聞きます。お医者さんや看護師さん、あるいは入浴やマッサージの「訪問」は知っていても、歯科の訪問についてはご存じない方が非常に多いのです。当然、訪問歯科診療には「限界がある」と思ってらっしゃる方も少なくありませんし、逆に、詰め物が取れてしまったら治して欲しい、ですとか、汚れているからきれいにしたい、といった簡単なことで訪問歯科を頼むのを躊躇される方も多いようです。今後は医療職や介護職の方々との連携を密にし、訪問歯科という選択肢があることをもっと広範な人々に伝えていければと考えています。必要な方に必要な医療を届けてあげたいのです。「気になるからちょっと見て欲しい」。些細に思えることでも構いませんので、気軽にご利用を考えていただければと思います。

※上記記事は2023年8月に取材したものです。
時間の経過による変化があることをご了承ください。